01
私たちが今を生きるこの世界・・・
でも、私たちがいる世界じゃない世界・・・
「王子、この世界に魔物があふれかえっている。もはや私の力ではもう抑えることができない。試練の洞窟へ向かい、王の証をとってく
るのだ。そして真の王となりこの世界に平和を取り戻すのだ。」
「はい、父上。」
そして、旅が始まった
astre −星−
「ねぇ、そろそろ休まない?」
日も暮れだしたころ、仲間の1人の女が立ち止まった。
「休みたいのはやまやまなんだが、町がないのだからしかたないだろう。」
先頭を歩いていた男がため息をつきながら振り返った。
「こんなとこで野宿したら魔物に襲われるからなぁ。」
隣を歩いていた男も苦笑いをしながら振り返った。
「でも、城を発ってからずっと歩きっぱなしだよ。」
「もう少ししたら町があるからがんばってくれ。」
「・・・・わかった。」
不服そうな顔をして歩き出した女に男達全員はため息をついて再び歩き出した。
この一行はこの国の王子手塚国光とその仲間の一行であった。王子である手塚国光をはじめとして、その副官大石秀一郎、参謀的な
乾貞治、魔導師不二シュウ、剣士河村隆、僧侶菊丸エイ、武道家桃城武、そして魔法使い海堂カオル。皆、それぞれ役職はあるけれ
ど、個々の技能は高く、ほとんどオールマイティに力を使える。ただし、魔導師や魔法使いや僧侶は魔力は高いけれど力が剣士や武
道家には劣る。逆もまた同じ。そして文句を言っていたのは不二シュウだった。
しばらく歩いていると1本の大きな木が見えてくると同時に町の明かりも見えてきた。
「町までもう少しだ。皆がんばれ。」
手塚が声をかけ、遠くからでも見えた大きな木の下までやってきた。見るとそこから町まで5分ぐらいで着きそうな感じだったが、いきな
り地中から魔物が現れた。
「くそ、もう少しだったのだが。」
手塚が眉間に皺を寄せ悪態をついた。
「皆体力残ってるか?!
「あんま残ってないよ!」
大石の叫びに菊丸が返事をした。
皆戦闘態勢に入り魔物達を倒し始めたが、次から次へと地中から現れきりがない。
「やばいぞ!もう体力がない!」
「魔力ももうほとんどないよ!」
誰もがもうダメだと思った時、どこからともなく声が聞こえた。
『雷鳴!』
その瞬間魔物達は叫び声を上げて消えた。8人は何が起こったのかわからず呆然としていると呪文を唱えた声がまた聞こえてきた。
「大丈夫?」
8人が警戒して辺りを見回すが人1人見つからない。
「ここだよ、ここ。上、上。」
ばっと上を向くと確かに木に少年らしき人が座っていた。顔はすっかり登ってしまった月明かりによって見えなかったが、声の高さや格
好からして少年だろうと誰もが思った。
「誰だ?」
手塚が少年らしき人に話しかけると少年は笑いながら言った。
「そんな警戒しないでよ。俺、自分が何者かわからないんだ。気がついたらここにいた。」
「気がついたら?」
不二が聞くと少年は頷いたような見えた。
「そう、俺記憶ないんだ。でさ、俺をここから出してくれない?」
「降りてきたらいいじゃないか。」
乾がもっともなことを言うと少年は首を振り答えた。
「これがある限り俺をこの木から降りれないんだ。」
そう言って足を動かすとジャラと言う音がした。少年の足には足枷がはめられており木に繋がっていた。
「君、何をしたんだ?」
大石が聞くと少年は悲しそうに言った。
「わかんない。目が覚めたらここにいてこれをはめられてた。本当に覚えてないんだ。」
「本当に覚えてないのか?」
「うん、本当。」
手塚は少年にもう1度確かめてから考えこんだ。
「手塚?」
仲間全員が手塚を見つめていると、いきなり手塚はジャンプして少年がいる木まで上がった。
「「「「「「「手塚(さん)!!!」」」」」」」
手塚が少年のところへ行くと少年のびっくりしている顔が見えた。
「お前を自由にしてやる。」
「えっ?」
手塚は少年の足についている足枷の鎖を切って少年を自由にした。
「これでお前はもう自由だ。」
「・・・アリガトウ。でも、自由にしてもらって悪いけど、俺行くあてがないんだ。」
少年は少し下を向いて言った。
「なら、俺達と一緒に来るか?」
「え?」
「俺達は旅の途中なんだ。旅をしていたらお前の記憶も戻るかもしれん。」
「いいの?」
「俺は構わん。後はあいつらに聞くだけだ。」
「わっ!!」
手塚はいきなり少年を抱き上げてしたへ降りた。
「手塚!」
降りてきた手塚に仲間達は全員安堵のためいきをついた。
「手塚、頼むから突拍子も無い行動をとるのはやめてくれ。」
大石は脱力しながら手塚に言った。
「手塚、その子が・・・?」
不二が手塚の腕の中にいる少年のことを尋ねた。
「ああ、こいつも一緒に旅をしようと思う。一緒に旅をしていたら記憶も戻るだろう。いいか?」
「いいかって・・・。手塚がいいなら僕は別にいいよ。」
「ああ、俺達はお前についていくだけだからな。」
「ありがとう。」
大石の言葉に全員が頷くのを見て手塚は礼を言った。
「皆お前を歓迎してくれたぞ、降りて挨拶しろ。」
手塚が少年にそう言うと少年は手塚の腕から顔を上げ地面に降りた。月に照らされていない少年の顔は驚くほど整っていた。
「えっと、アリガトウゴザイマス。名前はリョウって言います。これからよろしくお願いします。」
そう言って頭を下げると同時に誰かに抱きつかれた。
「にゃ〜おちびよろしくねぇ〜。俺、菊丸エイ!」
「エイ、首がしまってるよ。僕は不二シュウ。」
「にゃあ〜ごめんよぉちびー。」
「別にいいっす。」
「大丈夫かい?エイは手加減ないからなぁ。俺は大石秀一郎だ。」
「俺は乾貞治だ。」
「俺は河村隆だよ、よろしく。」
「俺は桃城武だ!桃ちゃんでいいぜ。」
「海堂カオルだ。」
皆が各自名前を言い終わるとリョウは手塚のほうを向き尋ねた。
「あんたは?」
「俺は手塚国光だ。」
「国光?・・・・・うん、よろしく!」
その笑顔は星の光で輝いたように見えた。
旅はまだ始まったばかり―

